肉体的負担を軽減する抱えないケアの必要性

介護現場では、高齢者が移動する際にスタッフが人力で抱え上げる作業が必要とされてきました。通常は、1人の高齢者を移動させるために、2人以上の介護職が抱え上げる必要があります。こうした介助行為は介護職の肉体的負担が大きく、腰痛やヘルニアなどの疾病に悩まされる職員も少なくありません。現場の介護職は、腰にコルセットを装着したり膝にサポーターを巻いたりして、負担を軽減しようと努力してきました。しかし、毎日平均50回以上と言われる移乗介助に携わっていると、何らかの健康上の問題は免れないでしょう。

介護職は決して高給与ではなく、肉体労働の負担が大きいため、離職率の高さも問題です。介護現場は人手不足が常態化していて、こうした状況を打開するために抱えないケアが提唱されるようになっています。抱えないケアとはノーリフティングケアとも呼ばれ、人力による移乗介助を避ける介護方式です。電動リフトなどの介護機器を利用し、介護職は介護機器を操作するだけという方式を指します。ノーリフティングケアについては介護職が要介護者の身体に触れる場面が減り機械任せとなるので、高齢者を物のように扱うという批判もあります。

しかし、介護職の肉体的負担が軽減されるだけでなく、高齢者が気兼ねなく移動を頼めるようになり、トイレ誘導が容易になったほか、離床の機会が増えて活動的になるというメリットは大きいといえます。抱えないケアを施すようになってから、リハビリや施設内イベントに積極的に参加するようになった高齢者も多いのも確かです。