日本におけるノーリフティングケアの現状

オーストラリアでスタートしたノーリフティングケアは、人力ではなく、移乗用リフトなどの福祉機器を活用して利用者を介助する新しい介護スタイルです。人力を使わないことで介護職の業務を軽減し、肩こりや腰痛の予防のほか、介護職の能力の差をカバーして誰もが同じ質の介護を受けることができるなどさまざまなメリットがあります。さらに、介護を受ける高齢者にとっても、人に直接抱えられることによって余計な力が入ったり身構えたりすることを回避でき、自然な自立支援につなげることが可能です。

すでにノーリフティングケアが浸透している欧米諸国では、人力による事故を未然に防ぎ、介護現場の安全性が高まることでも大きく評価されています。日本でもノーリフティングケアへの取り組みが普及し始めていて、各地で積極的に導入する動きは高まっています。一方で、現状の日本では欧米と比べてノーリグティングケアのポリシーが浸透しにくい側面があるのも事実です。日本では、人と人とのふれあいを大切にすることが介護の基本のため、福祉機器などによる介助に温もりを感じられないという考えが介護職と高齢者にも根強く残っている部分があります。

また、機械の導入にかかる費用が捻出できなかったり、機械のセッティングやメンテナンスに時間を費やす余裕がない介護現場も少なくありません。そのため、ノーリフティングケアが今後さらに浸透していくためには、行政による国をあげての推進策が必要不可欠で、介護者や利用者の心情に最大限の配慮をしながら適切に導入していくことが望ましいでしょう。